主な対象疾患の診療詳細このページを印刷する - 主な対象疾患の診療詳細

主な対象疾患の診療詳細

1.変形性股関節症

 軟骨の磨耗により股関節の破壊、骨増殖が起こる病気です。本邦では7割以上が股関節の臼蓋(関節の屋根の部分)の形成に何らかの異常を起こしていることが原因とされています。女性に多いのが特徴です。

【症状】
股関節の痛み、可動域制限、跛行(はこう;脚を引きずる動作のこと)などがみられます。また発症早期は股関節の痛みとして自覚されない場合も多く、腰痛、脚全体の痛みから坐骨神経痛と誤解されていることもあります。

【検査法】
(1) 単純X線
まず最初に行う検査、いわゆる“レントゲン”です。軟骨はエックス線写真には写りませんが、骨と骨の間にみえる黒いすき間の部分に存在します。軟骨がすり減るとそのすき間が狭くなってくることがわかります。また軟骨を支える部分の骨にみられる硬化像や骨のう胞、関節周囲の骨棘(こつきょく;骨のとげ)も診断の根拠となります。

(2) CT(コンピューター断層撮影)
エックス線を使用して体の断面図をみることのできる画像診断装置です。 臼蓋(関節の屋根の部分)と骨頭(太ももの骨のてっぺんの部分)の位置関係といった股関節の3次元的な形態を正確に知ることで 患者さんにあった術式を選択するのに役立ちます。

(3)MRI(磁気共鳴画像診断装置)
発症早期に単純X線では診断が困難な場合やレントゲンに写らない股関節の中の炎症性病変(滑膜炎;かつまくえん)を知る必要がある場合などに行います。

【治療法】
 保存療法と手術療法があります。保存療法とは、手術をせずに、薬や運動などによって関節の症状をやわらげる治療法です。消炎鎮痛剤をはじめとする薬物療法、股関節周囲の筋肉を鍛える運動療法などがあります。この他にも関節を温めたり冷やしたりする物理療法があります。 
 手術療法には、人工関節置換術や骨切り術などがあります。保存療法では効果の得られにくい方が対象となります。
当院では50歳未満の比較的若い変形性股関節症の患者さんに対しては自分の関節を温存することを第一に考え、骨きり術などを検討致します。しかしながら50歳以上の方で関節の磨耗や破壊、変形が高度で強い痛みを伴うような場合にはより快適な生活をおくるための手段として患者さんが希望されれば人工股関節置換術を行います。
 骨折などに比べるとその回復は比較的速やかで、当院では手術後およそ3週間のスケジュールでリハビリテーションを行います。この間に歩行訓練や脱臼しないための生活の仕方を覚えていただきます。1本杖でご自宅に退院していただくのが目標です。
“脱臼”という言葉を用いましたが人工股関節全置換術の主要な合併症の一つに人工関節の脱臼ということがあります。これは100人手術をすれば3-5人の方が術後に経験するといわれる合併症です。これはもし起これば強い痛みがあるため麻酔をかけて戻さなくてはなりませんが、日常生活においてちょっとした工夫をして頂ければ十分に回避できることです。そのためのビデオ学習や実践的動作の練習を行っていただきます。

 人工股関節置換術はその手術の技術も体内に挿入される器械も年々進歩し、耐久性が改善されています。昔は10年程度といわれた人工関節の寿命も最近では多くの場合15~20年以上の耐用性があることが判ってきました。
最近では私たちの病院でも表面置換型という、股関節の骨を可及的に温存することのできる人工関節手術も行っています。ただしその適応は若くて股関節の破壊や変形が少ない方に限られています。
もちろん手術を受けるかどうか、受けるとすればいつ、どの施設で受けるか、など最終的に決められるのは患者さんご本人ですので、ご自身の生活観、ライフスタイルなどを踏まえ、ご家族ともよく相談して決定されるのがよろしいかと思います。

 
 
2.変形性膝関節症

 関節軟骨の退行性変性により膝関節に変形、破壊を徐々に生じてくる疾患です。
本邦では、いわゆるO脚変形といわれる膝の内反した変形を生じることが多いといわれます。高齢の女性に多くみられます。

【症状】
 膝関節内側の痛みを歩行時、立ち上がり時に自覚します。可動域制限、関節水腫を生じ、末期には歩行困難をきたします。

【検査】
 変形性股関節症と同様に、まずはレントゲンによる関節の変形の評価を行います。MRIでは関節水腫の有無や、半月版の断裂の有無、靭帯の評価が可能です。

【治療】
 初期、進行期では保存的治療(消炎鎮痛剤内服やヒアルロン酸の関節内投与、リハビリテーションによる筋力強化)が主体となりますが、骨切り術の適応となる症例もあり当科では長崎で開発された脛骨顆外反骨切り術を用いた関節温存手術を行っています。一方、関節面の破壊、疼痛が著明であり、膝関節機能低下の強い末期関節症の症例に対しては人工膝関節置換術も行っています。これらの手術を行うことにより、劇的な疼痛改善と、日常生活動作の改善が期待できます。当院では手術後3~4週間のスケジュールでリハビリテーションを行い、一本杖歩行で自宅に退院していただく事を目標としています。

 
 
3.関節リウマチ
 関節リウマチは国民の1%前後の有病率といわれ、原因もまだ明らかになっておらず、多くの患者さんが苦しんでいる疾患です。当院は日本リウマチ学会の研修指定病院であり、リウマチ 患者さんの保存的治療、手術的治療に取り組んでまいりました。

 薬物療法では、抗リウマチ薬による治療が主体であり、最近では生物製剤と言われる抗リウマチ剤が使われるようになり、骨破壊が抑制されるようになってきています。

 手術療法では骨・関節破壊等が進行した症例に対し、個々にあわせた手術を行っています。代表的な手術には、滑膜切除術、人工関節置換術など挙げられます。特に、股関節、膝関節では人工関節置換術の効果が高いといわれています。
 
 
4.腰椎椎間板ヘルニア
 腰椎椎間板ヘルニアは30~40代の男性に多くみられ、急激な腰痛とでん部から下肢の痛み、しびれを生じます。診断は症状、診察所見、レントゲンに加え、MRIまで外来検査で行っています。

 治療法は、まず、保存的加療が主体で、鎮痛剤内服・安静・コルセット装着・神経根ブロック等を外来で行っています。保存的加療に抵抗する症例や社会的に早期復帰を望む方には観血的に椎間板摘出術を行っています。術後数日後より歩行開始し、2週間での退院を目標としています。不安定性の強い症例には腰椎固定術を同時に行っています。
 
 
5.腰部脊柱管狭窄症
 脊柱管とは脊椎内で脊髄神経が通過する空間のことですが、変形や靭帯の肥厚などにより神経が圧迫され、神経障害(痛み、しびれなど)をきたす疾患です。代表的な症状として間欠性跛行(かんけつせいはこう)を生じます。歩行するとでん部から下肢の痺れが強くなり、次第に歩行困難となり、休憩し座ることにより改善する症状です。動脈が閉塞して起きる跛行とは区別します。診断は症状、診察所見、レントゲン、MRIにて可能です。

 治療法は、保存的加療が主体で、内服治療・コルセット装着・神経根ブロック等を外来で行っています。保存的治療では効果なく、手術を希望される方には、椎弓切除術、椎弓形成術などの手術を行っています。必要に応じて腰椎固定術を同時に行っています。術後数日で歩行開始し、2週間での退院を目標としています。
 
 
6.大腿骨頚部骨折
 大腿骨頚部骨折は太ももの骨(大腿骨)の付け根の部分で生じる骨折です。骨粗鬆症を起因とする代表的な骨折で高齢の女性に多く発生します。報告されているだけでも日本では年間5万人以上の方が手術加療を受けているといわれます。高齢者が寝たきりになる原因の一つとされています。

 症状は、転倒後に、強い股関節部の痛み、変形などを生じ、歩くことができなくなくなります。
検査はレントゲン撮影を行い骨折の有無を確認します。レントゲンでわかりづらいときもあり、そのときにはCTやMRIが診断の手助けとなります。

 治療はそのまま放置すると、肺炎、膀胱炎、褥瘡(床ずれ)、認知症の出現・悪化などをきたし致命的となることがあるため、早期離床、早期社会復帰を目的として、全身状態が悪くなければ手術の適応となります。

 手術の内容は骨折の場所で異なります。大腿骨頸部骨折は股関節の関節包の外側で骨折する「転子部骨折(外側骨折)」と、関節包より内側で骨折する「内側骨折(狭義の頸部骨折)」とに分けられますが、転子部骨折は血流がよく骨がくっつきやすい反面、内側は血流が乏しいため折れた骨はなかなかくっつきません。そのため、一般的に転子部骨折では骨接合術(骨同士を金属で固定する)がおこなわれ、内側骨折では人工骨頭置換術(骨折した骨頭を含む骨片を摘出し人工の骨頭と入れ替える)がおこなわれます。

 どちらの手術を行っても、早期のリハビリが可能となります。通常、手術後1~2日後には車椅子乗車ができ、その後筋力訓練・起立歩行訓練などのリハビリを行っていきます。手術後の歩行能力はけがする前の歩行能力が大きく関与します。

 当院では、術後2週間でリハビリテーションを目的とした連携病院へ転院していただき、十分なリハビリを継続していただくスケジュールで治療を行っています。
 
 
7.手根管症候群
 正中神経は手関節の部分で横手根靱帯と手根骨が作るトンネルを通ります。そのトンネルを手根管といい、手根管で正中神経が絞扼される疾患を手根管症候群といいます。

 原因としては腫瘍、腱滑膜炎、手関節骨折後(橈骨遠位端骨折)などがあり、手を過度に使用する職業、特に女性に多くみられます。

 症状は手掌側の親指から薬指の半分までの感覚異常やしびれ、母指の付け根の筋肉の萎縮などがみられます。

 検査は診察に加え神経伝導速度を測定することで確定診断となります。

 治療としてはまず手首を安静に保つことが大切で、ビタミン剤、消炎鎮痛剤の投与、夜間だけ手首に装具(夜間装具)をあてたりしています。手根管部にステロイドを注射することも行われます。しかし、これらの保存療法でも症状が改善しない場合は、手根管開放術が行われます。手掌側を2cmほど皮切し横手根靱帯を切開し正中神経の絞扼を除きます。術後約10日で抜糸を行い、以後日常生活の簡単な動作は比較的早期に出来るようになります。
 
 
8.撓骨遠位端骨折
 転倒時に手を突いて受傷しやすい手関節の骨折です。骨折の中でも最も頻度の高いもののひとつです。 最近ではメジャーリーガーの松井秀樹選手がケガしたことで有名になりました。このようなスポーツや事故での受傷もありますが、多くの場合骨粗しょう症のあるご高齢の方に起こりやすいのが特徴です。

 通常ではギプス固定の期間が長く、完治に時間がかかる上、変形治癒など多くの後遺症が問題となります。そこで当院では、ギプス固定期間が短くて済むような安定型の骨折に対してはギプス固定のみの加療を行いますが、整復位をギプスでは保持できないような不安定な骨折に対してはなるだけ速やかに最新の手術器械(プレート、スクリュー、創外固定など)を使用した手術を行うことで早期からのリハビリテーションを行うように努めています。

 近年、早期のリハビリを行うことで後遺症を最小に防ぐことができるという多くの報告がなされています。術後のリハビリは近所の整形外科施設と連携して行うことも可能です。
 
 
9.骨盤骨折
 当院は3次救急病院であり、ドクターヘリ導入により、より高エネルギー外傷患者の救急搬送が今後増加することが予想されます。

 骨盤骨折はその中でも、生命にかかわる重症の骨折です。骨盤骨折の 患者さんの診断、治療には整形外科医だけではなく、救急救命医、放射線科医をはじめとした多くのスタッフの協力により可能となります。

 緊急で行うレントゲン検査、CT検査、血管造影検査などにより診断を行い、ショックに対する救命治療、血管塞栓術、緊急輸血などによる救命率を向上させ、急性期を脱出した後は、骨接合手術、リハビリテーションにより早期離床、社会復帰を図っています。