病気についての簡単な知識このページを印刷する - 病気についての簡単な知識

代謝性疾患について

【1型糖尿病】
 1型糖尿病はインスリンを分泌する膵臓のβ細胞の障害のためインスリンが分泌できなくなり、著しい高血糖からケトアシドースや昏睡に至る疾患です。若年者に発症することが多いとされていますが、いずれの年齢でも発症する可能性があります。

 病因から自己免疫機序によるものと特発性の2つのタイプに大別されていますが、抗GAD(グルタミン酸脱炭酸酵素)抗体・膵ランゲルハンス島(ICA)抗体などの自己抗体が陽性となる自己免疫によるタイプが最も多くみられます。

 自己抗体は陽性ですが、2型糖尿病のように徐々にインスリン分泌の廃絶が進行する「緩徐進行型1型糖尿病」が高齢者においてもみられることが明らかになってきています。

 近年,急激にインスリン分泌が廃絶する劇症型糖尿病の病型が明らかにされましたが、病因はいまだ解明されていません。

 1型糖尿病では生命維持のため、インスリン治療が必要不可欠となります。

 インスリン投与法を工夫しても血糖コントロールが困難である場合や妊娠例では、持続皮下インスリン注入療法(CSII)が試みられることもあります。

 

【2型糖尿病】
 厚生労働省により平成14年に行われた糖尿病実態調査によると,わが国の糖尿病が強く疑われる者の数は,約740万人にものぼっています。これに糖尿病の可能性を否定できない人いわゆる「糖尿病予備軍」を合わせると約1,600万人を超えるといわれています。

 糖尿病が強く疑われる人で糖尿病の治療を受けている人は約50%であり,半数は未治療状態で放置されているという現状があります。

 糖尿病は自覚症状がないことが多く、検診で発見されることの多い疾患ですので、患者の病識・治療意欲を欠如させ、合併症を進行させてしまう要因となっています。

 糖尿病治療のゴールは,血管合併症の予防にあります。糖尿病患者の細小血管合併症の頻度は,神経障害(16%),網膜症(13%),腎症(15%),足壊疽(1.6%)となっています。

 冠動脈疾患(虚血性心疾患)、脳血管障害、閉塞性動脈硬化症などの動脈硬化性疾患は糖尿病では、血糖正常者の2~4倍の発症リスクがあることが明らかとなっています。

 細小血管合併症がHbA1c6.5%以下の血糖コントロールにより良好に予防されるのに対して、大血管合併症の予防は、血糖コントロールだけでは不十分です。血糖管理に加えて血圧、高脂血症、禁煙など生活習慣全般の管理が必要となります。

 糖尿病の治療の基本は、食事療法、運動療法、薬物療法です。

内分泌疾患について

【甲状腺機能亢進症】
 血中甲状腺ホルモンが過剰で,動悸・頻脈,発汗過多,易疲労感,手指振戦,体重減少,軟便・下痢などの臨床症状が出現している場合を「甲状腺中毒症」(thyrotoxicosis)と呼びます。

 甲状腺機能が亢進し甲状腺ホルモン合成が高まっている場合を「甲状腺機能亢進症」(hyperthyroidism)と呼び,その大部分はバセドウ病です。

 甲状腺組織が破壊されて一時的に甲状腺ホルモンが血中に流出した状態(亜急性甲状腺炎,無痛性甲状腺炎)や,甲状腺ホルモンの過量摂取などによっても甲状腺中毒症になることがあります。

 無痛性甲状腺炎は痛みのないびまん性甲状腺腫が認められるため,臨床的にバセドウ病との鑑別が問題になります。
 無痛性甲状腺炎は抗甲状腺薬による治療を要しないので,両者の鑑別が重要です。

 臨床経過(無痛性甲状腺炎では甲状腺中毒症状の期間が短い),TSH受容体抗体の有無,放射性ヨード摂取率などが鑑別上有用です。

 外来での検査で、これらの疾患の鑑別を行うことができます。

 甲状腺機能亢進症の原因として最も多いバセドウ病の治療方法には,抗甲状腺薬(ATD)による薬物療法,放射性ヨード療法,手術療法があります。

 わが国では未治療バセドウ病患者の9割以上が薬物療法から開始されています。薬の副作用が問題になった場合や寛解しにくい症例,あるいは早く寛解させたい症例などは,放射性ヨード療法や手術療法の適応となります。

 

【慢性甲状腺炎(橋本病)】
 橋本病は、バセドウ病とともに臓器特異的自己免疫性甲状腺疾患を代表する疾患です。

 血液の中に抗サイログロブリン抗体や抗マイクロゾーム(甲状腺ペルオキシダーゼ)抗体を認め、通常甲状腺の腫大を伴っています。抗甲状腺抗体は90%以上の橋本病で陽性ですが、同抗体陰性で明らかな原因のないびまん性甲状腺腫大を認める場合は,橋本病疑いとなります。

 成人女性の10人に1人と高頻度に認められ,男女比は1:10以上で、圧倒的に女性に多く、加齢とともに増加します。

 橋本病患者の8-9割は甲状腺機能正常であり、組織破壊が進行すると機能低下となることがあり、薬物療法が必要となります。時に、甲状腺破壊による一過性の甲状腺機能中毒症を呈することがあり、無痛性甲状腺炎(painless thyroiditis)と呼ばれています。

 出産後に同様な病態を生じたり(出産後自己免疫性甲状腺症候群)、甲状腺が痛みを伴って腫大し、亜急性甲状腺炎に似た病態(橋本病の急性増悪)を呈することがあります。

 血中甲状腺ホルモンの低下をともなった慢性甲状腺炎は、甲状腺ホルモン剤による補充療法が必要になります。多くは終生服薬が必要となります。

 

【亜急性甲状腺炎】
 ウイルス感染による甲状腺の炎症と破壊によって、甲状腺の腫大と痛みが出現し、甲状腺中毒症を呈する疾患です。30-60歳の女性に多く発症します。

 発熱(約60%)を認め、発汗、手指のふるえ、頻脈などの甲状腺中毒症状を認めます。甲状腺の腫大と痛みを認めます。ときどき移動性の甲状腺腫大と圧痛を示すことがあります。血中の甲状腺ホルモンは増加し、血液検査や甲状腺超音波検査によって診断することが可能です。

 炎症症状が強くない場合は、痛み止めで経過を見ますが、炎症症状が強い場合や症状が長引く場合はステロイドホルモン剤による治療が必要になることもあります。

 

【甲状腺腫瘍】
 甲状腺の腫瘍には、良性腫瘍と悪性腫瘍(甲状腺癌)があります。甲状腺腫瘍の80~90%は良性であると言われています。良性腫瘍の場合は、そのまま経過観察して大丈夫ですが、悪性腫瘍の場合は手術治療をはじめとする適切な治療が必要となりますので、これらの鑑別が非常に重要となります。

 甲状腺癌の診断には超音波検査と穿刺吸引細胞診が最も有効です。いずれも外来にて検査することが可能です。

 甲状腺濾胞癌・乳頭癌は手術が第1選択です。肺転移がある場合には甲状腺を全て摘出したあとに放射性ヨードの大量内服療法を行います。骨転移には放射性ヨードはあまり有効ではないので手術可能であれば手術で切除し、放射線の外照射による治療を行います。

 

【副甲状腺機能亢進症】
 副甲状腺ホルモンの分泌亢進により高カルシウム血症と低リン血症が惹起される疾患です。副甲状腺ホルモンの過剰は骨をもろくし、線維性骨炎・骨粗鬆症・尿路結石や膵炎の原因となります。

 しかし、最近は無症状の患者が増加しています。本症の大部分は副甲状腺の良性腫瘍(腺腫)によりますが、過形成や癌によることもあります。治療は副甲状腺病変の外科的切除が原則です。

 熟練した外科医による術後の血清カルシウム正常化率は98.5%であり、手術による骨粗鬆症の改善効果や尿路結石の再発防止効果が明らかにされています。