対象疾患・診療内容
対象疾患について(代表的な呼吸器疾患)
■病態
気管支の慢性炎症が疾患の本態です。炎症のために、気管支粘膜の浮腫、気道分泌の亢進、気管支平滑筋の収縮をきたし、その結果、喘息症状が発現するものです。
軽症から重症まで様々ですが、年々増加傾向にあります。
■症状
発作性に呼吸困難、咳嗽、喘鳴、喀痰増加などをきたします(特に夜間、明け方)。
喘鳴を伴わず、咳が主症状の咳型喘息もあります。
■診断
臨床症状から喘息を疑い、聴診など診察と必要な検査を行い診断します。
血液検査でアレルギー素因(好酸球増加、IgE高値など)の有無、肺機能(症状発現時閉塞性換気障害を認め、気管支拡張薬吸入でピークフロー、1秒量が20%以上増加)、喀痰細胞診(好酸球の有無:喘息患者では好酸球の気道浸潤が特徴的)などをチェックします。
心臓喘息や、その他の呼吸器疾患を除外することも必要です。
■治療
日常生活では、風邪など感染の予防に留意し、ハウスダスト、ペット、喫煙など発作の誘因を遠ざける必要があります。季節や天候にも左右されます。過労やストレスもよくありません。
治療はガイドラインに沿って行われます。
気管支喘息の本態が気道の慢性炎症であることより、その炎症を抑えるステロイド吸入療法を積極的に進めています。
テオフィリン製剤は気管支拡張作用以外に抗炎症効果もあるとされています。
発作時の対応のみならず、患者さんの教育を行いながら喘息日誌をつけてもらい、ピークフロー値を自己ベストの80%以上を目標に管理を行っております。
最近、持続型β2刺激貼付薬、持続型β2刺激吸入薬(LABA)、抗ロイコトリエン拮抗薬など抗アレルギー薬の新しい薬物も登場し、より高い治療効果を得ることができるようになってきました。
また、吸入ステロイドと持続型β2刺激吸入薬を同時に吸入できる新しい薬も導入しております。
気管支平滑筋の収縮が発作に関与しているので、発作時に1日3~4回以内の短時間作動β2刺激薬(SABA)のネブライザー等による吸入を行います。
運動誘発喘息では運動前に吸入することも有効です。
重症、難治例では、ステロイド薬の全身投与(点滴や内服)も必要になりますが、長期使用すると骨が弱くなったり、感染を来しやすいなど様々な副作用に注意しなければなりません。
喘息は日常の管理が大切で、健康管理に注意し、また症状が安定していても自己判断で薬を中断したりしないことです。
発作をくり返すなどコントロール不良のまま放置するとリモデリングにより病状は徐々に進行していきます。
病診連携により日頃は開業医など近くの医療機関にかかられ、発作時や合併症あるいは妊娠など必要な時に当院を受診されている方もおられます。
■定義・概念
大気汚染や喫煙などで末梢気道に慢性炎症が起こり、中枢気道や肺胞に炎症が及ぶ疾患をいいます。
肺胞構造の破壊(肺気腫)、慢性の気道炎症(慢性気管支炎)により、気流閉塞、すなわち最大努力をしても十分に空気が出ない(閉塞性障害)という病態をきたします。
■症状
咳、痰、息切れ(特に労作時の息切れではじまります)などの症状が慢性に経過し、喫煙や加齢により年々悪化していく傾向となります。進行すると、呼吸困難が増強し、酸素吸入が必要となってくることもあります。
■診断
肺機能検査で、閉塞性換気障害のパターンを呈します。
また、肺気腫では、特に胸部CTで気腫性変化を認めます。
■治療
まず、禁煙が重要です。
薬物療法:残念ながら病気、即ち壊れてしまった肺構造を元に戻すことはできません。
治療は病気の進行を抑えることです。長時間作動型抗コリン薬の吸入が行われます。
また、テオフィリン薬も併用されることが多いようです。
LABAの効果については議論がわかれるところですが、気管支拡張薬が一部の患者に効果があるのも事実です。
また肺気腫においてステロイド薬の役割は一定の見解は得られていません。
ステロイドの吸入や全身投与で気道閉塞や自覚症状の改善が得られたり、急性増悪による呼吸不全に有効な場合もあるのも事実です。
二次感染や心不全などによる急性増悪を予防し、もし罹患した場合には早期の治療が必要です。 高度の肺気腫患者で病変の分布に偏りがあれば、機能を失った肺の一部を切除することで呼吸機能および自覚症状を改善させることを目的に、肺容量減少術(lung volume reduction surgery : LVRS)が行われることもあります。
■症状
呼吸困難、意識障害、チアノーゼなどの他、原因より胸痛や喘鳴などの症状を伴います。
■診断
動脈血ガス分析により呼吸不全の重症度を把握し、胸部X線や血液検査、喀痰検査など行い原因を究明します。
■治療
治療としては呼吸不全の程度に応じて対症療法的に酸素吸入が行われますが、動脈血二酸化炭素分圧が上昇している場合は酸素流量が多くなり過ぎないよう注意が必要です。 原因を早急に診断し、原因治療を行い病態の改善に全力を尽くします。
慢性呼吸不全の急性増悪では、気道感染と心不全が2大原因です。
もともと呼吸機能障害がない急性の呼吸不全では、重症の肺炎、喘息発作、肺血栓塞栓症、緊張性気胸、気道異物、ARDS、薬物中毒などが原因として疑われます。
呼吸不全が重症で、通常の治療で改善せず、生命の危険があるような患者に対して人工呼吸器を装着し、呼吸管理を含めた全身管理を行っています。最近では気管内挿管をせずに非侵襲的にマスクで陽圧換気を行う方法(NIPPV)もあります。
慢性期の対応としては、COPDや肺結核後遺症などで 在宅酸素療法を行っていますが、呼吸リハビリテーションも含めて治療しています。
※在宅酸素療法
■症状
症状としては、咳嗽、喀痰、呼吸困難、血痰などの呼吸器症状の他、発熱や食思不振、倦怠感などの非特異的症状があります。長引く時は結核や真菌症など慢性に経過する感染症も疑わなければなりません。
一般に高齢者では、自覚症状が乏しい傾向があります。呼吸器症状を訴えなくても肺炎をきたしている場合もあり注意が必要です。
■診断
臨床症状から肺炎が疑われたら、聴診で肺雑音をチェックします。
胸部X線や必要なら胸部CTをオーダーし、病変の有無や局在、性状を確認します。
また血液検査で炎症反応(白血球数と分画、CRP、血沈など)や特異的検査(抗体価)を実施し、喀痰検査や血液培養で起炎菌の検索を行います。
診断に苦慮して、気管支鏡検査まで必要になるケースもあります。
■治療
患者背景(年令や基礎疾患)や経過からある程度起炎菌を絞り込み、有効性が期待できる抗生剤によるempirical therapy を開始します。
起炎菌およびその薬剤感受性とそれまでの治療経過をもとに治療の見直しをします。
最近では耐性菌の増加、結核を含めて新興・再興感染症の問題、高齢化社会・-を迎え高度医療による疾病構造複雑化などで易感染宿主が増加し、肺炎の診断や治療が難しくなってきています。
日本呼吸器学会から肺炎(市中、院内)治療ガイドラインが出されており、ガイドラインに沿った治療を中心に行っています。
■症状
症状としては、乾性咳嗽や労作時息切れが主で、経過は原因/病態により異なります。
いわゆる特発性間質性肺炎ではほとんどの場合徐々に進行性です。
■診断
胸部X線、胸部CTで間質性肺炎を疑えば、特定の原因(例えば膠原病や薬剤性、感染症など)を追求します。 気管支鏡検査ではTBLB、BALを行い、病態の解明/診断に近づく努力をします。
■治療
原因/病態に応じて治療方針を立てるのが原則ですが、原因不明の事も多いのが実情です。
主にステロイドや免疫抑制剤が用いられます。呼吸状態が悪化する場合も多く、必要であれば、救命救急センターでの集中治療も行います。
■症状
咳嗽は、患者さんが病院を訪れる頻度の高い症候のひとつです。
咳の原因は、普通のカゼから、心疾患や肺癌など命にかかわるような疾患までさまざまです。
胸部レントゲン写真や聴診上で異常が認められる場合は、容易に診断がつく場合が多いのですが、明らかな異常がなく、長期にわたり認められる咳嗽は診断が困難な場合も認めます。
咳嗽が持続することで、不眠やエネルギーの消費が大きいことによる日常生活の妨げになることがあり、馬鹿にできない症候です。
■診断
咳嗽は3週間以内の急性咳嗽、3~8週間の遷延性咳嗽と8週間以上の慢性咳嗽に分けられます。 それぞれに、特徴的な疾患があり、日本呼吸器学会の提唱する咳嗽に関するガイドラインに沿った診療を行います。
また、必要であれば、他科と連携を図り、診断を行っております。
■治療
原疾患があれば、それに対する治療を行います。
咳嗽に対しては、中枢性鎮咳剤を中心に、痰が絡む場合などは、去痰剤の併用を行います。
咳喘息などでは、短時間作動型β2刺激薬や抗アレルギー薬、必要であれば、気管支喘息に沿った治療が必要になります。
薬による咳嗽であれば、内服の中止が必要です。
後鼻漏などは、耳鼻科での専門的な治療が必要な場合もあります。
胃食道逆流症(gastro-esophageal reflex disease;GERD)でも、咳嗽をみとめることがあり、H2受容体拮抗薬やプロトンポンプ阻害薬などを内服していただき、咳嗽が軽減した場合は、治療的診断となります。
検査内容について
X線学的検査:胸部単純X線、胸部CT
気管支内視鏡検査:火曜日の午後と木曜日の午前・午後に行なっています。
【診断】
気管支内視鏡は、声門を越えて、気管・気管支内腔における可視範囲内での病変の有無、性状を観察するものです。病変を認めた場合、鉗子やブラシなどを用いて病変組織(生検)や細胞(細胞診)の検査を行います。
また気管支内腔からは内視鏡が挿入できず病変を認めない末梢肺野に病変がある場合は、X線透視下に肺野病変の生検(経気管支的肺生検:TBLB)を行ないます。
また、間質性肺炎などの両肺に広く拡がる病変の診断には、より多くの情報が必要で、先ほどのTBLBに加えて、気管支から生理食塩水で肺の中を洗って肺内の細胞や液体成分を調べて診断する方法(気管支肺胞洗浄:BAL)も行なっています。
また気管支壁外にあるリンパ節の診断などには気管支内腔から針を刺して細胞を吸引して診断を行う経気管支的吸引細胞診(TBAC)も使用されます。
(コンベックス走査式超音波気管支鏡ガイド下生検(EUBS-TBNA))
気管支腔内超音波内視鏡ガイド下生検(EUBS-TBNA)は、気管・気管支内腔に超音波気管支鏡を挿入し、超音波ガイド下にリンパ節を描出し穿刺生検を行うことでリンパ節転移の診断などを行うものです。
極細径気管支内視鏡は、通常の気管支内視鏡が外径5~6mm程度あるのに対して、2.8mm以下で、従来気管支鏡が到達できなかったより末梢の気管支へ挿入できる内視鏡です。
処置について
把持鉗子で気道内へ歯牙,歯冠,食物などを誤嚥した際に,気管支鏡を用いてそれらの異物を除去します。
レーザー光をoptical fiberで内視鏡を通して誘導し、気管支内腔へ突出する病変、特に肺癌、に対して焼灼する処置です。
気管支内腔へ突出する病変、特に肺癌、に対して気管支鏡的に高周波電流により凝固、切開する処置です。(高周波凝固子、高周波スネア、高周波ナイフ、ホットバイオプシーなどの処置具を用います。)
癌などで中枢気道の閉塞、著明な狭窄をきたしたときに種々の内視鏡的処置により気道の開大を図ります。その後に気道の開大を可及的に維持できるように気道内にステントを留置します。
従来、全身麻酔下で手術として行なわれていた胸腔鏡が細径となり患者さんの苦痛も少なく、胸膜炎の原因診断など胸膜病変などの診断、処置に用いられます。
その他、気管支腫瘍などに対する薬物注入(抗がん剤、エタノールなど)、気管支塞栓術、気管支区域洗浄なども行っています。
■受診・症状など
上大静脈症候群(頭部・頸部・腕の腫脹)、ホルネル症候群(頸部から腕への放散痛、眼瞼下垂、縮瞳、発汗減少)など
体重減少、食欲不振、発熱など
■検診
胸部X線での異常陰影を発見、重喫煙者での喀痰細胞診検査の異常
■診断
気管支内視鏡検査が原則として行われます。
必要に応じてX線透視下の肺針生検やCTガイド下肺針生検、場合によっては胸腔鏡、開胸生検(手術)が行われます。
肺癌が確定した場合、肺癌の進展度合いについて段階を決めます。
これを病期といいますが、病期は、原発巣の広がり、所属リンパ節転移の有無、遠隔転移の有無により決められます。
病期決定に際しては、身体所見、胸部X線撮影、胸部断層撮影に加えて、胸部CT、頭部MRI、腹部CT、骨シンチ、PET-CTなどを行います。
全身状態や
主要臓器機能の評価:
今後の治療方針をたてる上で、全身状態などの評価も必要となります。
一般血液生化学的検査、心電図、肺機能検査などが合わせて行われます。
■治療
治療方法は呼吸器科カンファランスで検討されます。
病期(進行度により0?IV期に分けられる)、組織型(小細胞癌か非小細胞癌かなど)、全身状態(年齢、PS、諸臓器機能)によって治療法を決めていきます。
非小細胞癌(腺癌・大細胞癌・扁平上皮癌)では、I期、II期と一部のIIIA期は通常は手術が行われます。術後の病期により手術後に化学療法を追加する場合があります。
IIIB期及び切除不能なIIIA期では化学療法と放射線との併用療法が中心に行われます。
IIIB期の一部(悪性胸水)及びIV期では化学療法あるいは支持療法が行われます。
小細胞癌では、Limited disease(LD, 限局型)は化学療法放射線治療の併用療法が、Extensive disease(ED, 進展型)では化学療法が行われます。
また化学療法による効果が見られた場合は脳への再発を減らすために予防的全脳照射が行われます。
先述の検査を行った後に、患者さんやその家族に対して病名・組織型・病態・進展度などの病状及び治療法(副作用や合併症を含めて)について詳細に説明を行い、十分な理解を得た上で治療にかかるインフォームド・コンセント(説明と同意)を重視した診療を行っています。
新規の抗癌剤や放射線療法との組み合わせなどにより治療成績の向上を目指しています。
その中で、種々の臨床試験にも積極的に取り組み、多施設共同研究(Nagasaki Thoracic Oncology Group (NTOG)など)、新薬の治験や市販後臨床試験などにも参加しています。
なお、新しい治療は世界に対して情報発信できるように努めています。
また癌による気道狭窄に対しては、レーザー焼灼、高周波処置やステント留置による気道開大
などを行っています。
また、上記の標準的治療のみならず全身状態(Performance status; PS)が悪かったり、高齢であったりと患者さんの状態に応じた治療も行なっています。
癌性疼痛に対しては、モルヒネを積極的に用い、末期癌患者に対しては、在宅酸素療法や病診連携などで在宅療法を検討するなどQOLを考慮した緩和医療にも努めています。