前立腺がん
前立腺がんは、欧米人に多く、アジア人には少ないと考えられていましたが、日本でもその患者数は著しく増加しており、生活習慣の欧米化がその原因の一つとして考えられています。 前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSAの測定による検診の普及に伴い、早期の段階で前立腺がんと診断される患者さんが増えているのも特徴の一つであると言えますが、そのような現在においても、骨転移による痛み、麻痺症状で前立腺がんと診断され、診断されたときにはすでに進行している患者さんも一定の割合で存在します。
ここでは、当院で行っている前立腺がん診療について紹介します。
診療内容
癌が前立腺に限局し、転移がない場合は、根治が期待でき、大部分の患者さんで根治療法が行われます。 根治療法としては、大きく手術と放射線療法の2つに分けられます。
前立腺およびその背側にある精のうを一塊に摘出します。開腹による手術が一般的でしたが、当院では2014年度より腹腔鏡下前立腺全摘術を導入しています。 著明な前立腺肥大があるなど、一部の腹腔鏡手術が難しい例を除き、ほとんどすべての患者さんで腹腔鏡手術を行うようになりました。 開腹手術では、通常6cm~10cmの傷が入るのに対し、腹腔鏡手術では、5か所ほど傷が入りますが、最大のものが2cm程度で、その他の傷は5mm~1cm程度です。 傷の痛みが少ないため、術後の回復が早く、通常手術翌日から歩行が可能です。 また、開腹手術に比べて術中の出血が少ないという利点もあります。手術は全身麻酔で行い、2週間程度の入院で行っています。
尿失禁: 特におなかに力が入ったときに尿漏れが起こります。 術後早期には尿取りパッドが必要ですが、失禁量は徐々に減少し、多くの患者さんは数か月もすればほとんど気にならない程度になります。
性機能障害: 手術により勃起障害が起こります。 患者さんの病状や希望により、勃起神経を温存する術式を選択することもあります。
放射線療法には、大きく分けて体の外から放射線を当てる外照射と、前立腺の中に放射線の入ったカプセルを埋め込む組織内照射の2つがありますが、当院では外照射を行っています。
専用のコンピューターを用いて、強さや方向を調整しながら照射を行うことにより、前立腺に高線量を集中して照射することができ、直腸や膀胱など周辺の臓器への影響を最小限に抑えることができます。 当院では、( )年( )月よりこの治療を導入し、現在までに( )名あまりの患者さんがこの治療をうけられています。
体への負担はほとんどなく、外来通院で治療ができますが、治療には2か月程度の期間を要し、治療期間中は、平日毎日通院が必要です。離島や遠方にお住まいの患者さんなど、通院が難しい患者さんには、入院で治療を行う場合があります。
手術にほぼ匹敵する治療効果が期待できますが、臨床病期、がんの悪性度、前立腺の大きさなどにより、患者さんによってはお勧めできない場合、あるいは一定期間の内分泌療法(後述)の併用がのぞましい場合がありますので、担当医と十分に相談して治療を選択されることをお勧めします。
・放射線療法の合併症
血便、血尿:放射線の影響により放射線性直腸炎、放射線性膀胱炎などが起こり、血便、血尿がみられることがまれにあります。 きわめてまれですが、内視鏡的に止血を行う必要がある場合があります。
排尿に関する合併症:治療中に放射線の刺激により、頻尿がおこることがしばしばあります。通常は治療後に徐々に改善します。 排尿困難が起こることもまれにあります。 症状が強い場合には、症状を改善させるための内服薬を併用し、症状の軽減に努めます。ご高齢の患者さん、あるいは合併症がある患者さんの場合は、通常進行がんで第一選択となる内分泌療法を選択する場合があります。 男性ホルモンの分泌を抑える、あるいは遮断するような薬による治療です。内服薬と、1か月~3か月に1回の皮下注射を併用して行う治療が一般的です。 外来通院で治療ができます。
前立腺癌は通常進行が遅いがんであるため、きわめて早期の段階であれば、治療をしなくても患者さんの生活、寿命に影響を与えない可能性があります。 その場合、まずは治療をせず、定期的なPSAの測定や、1年~数年おきに組織検査を行いながら様子をみることがあります。
診断された時点ですでに転移があるなど、進行がんの場合には、内分泌療法が第一選択となります。 前立腺がんはほとんどの場合男性ホルモン依存性であるため、男性ホルモンの分泌を抑制する、あるいは男性ホルモンをブロックするような薬の治療が有効です。
この治療は全身療法ですので、転移巣にたいしても効果があります。 内服薬と、1か月~3か月に1回の皮下注射を併用して行う治療が一般的です。
内分泌療法は非常に効果的ですが、治療をしていくうちに、効果が弱くなり、再燃することがあります。 その場合には、薬の内容を変更したり、抗がん剤の併用を行います。 また、痛みなどの症状に対する緩和治療も並行して行います。
このように、前立腺がん、特に限局がんの治療は多岐にわたりますが、患者さんのご希望、病状、ライフスタイルなどを考慮し、もっとも効果的で、かつQOL(生活の質)を重視した治療を行うことを心がけています。
診療実績
-手術方法- | 2011年 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 |
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前立腺全摘術 | 28例 | 31例 | 23例 | 13例 | 14例 |
血液検査でPSA(前立腺がんのマーカー)が高値、あるいは直腸診で腫瘤(しこり)を触れるなど、前立腺がんを疑う所見があった場合には、前立腺生検を行います。
前立腺生検は前立腺に直接針を刺し、組織を採取する検査です。通常麻酔下に行い、
2泊3日の短期入院で行います。 前立腺がんと診断された場合は、CTや骨シンチグラムなどの画像検査を行い、転移の有無などを確認した上で下記のような治療を検討します。