『先生のうそつき』【コラム】
2017年2月9日掲載
C型肝炎に対する新しい治療薬での治療が終わった後に、新たに肝がんが出現した私の患者さんのインタビュー記事が先月読売新聞に掲載された。その患者さんがどのような経過をたどり、その時々にどのように感じられたのかは、ご一読いただきたい。新聞を広げた時、冒頭の(先生のうそつき)の一言には私も少々驚いたが、確かに肝がんと診断、説明した折にそのように言われたことを覚えている。
C型肝炎の治療法をお勧めする時には、1.治療の目的、2.治癒確率、3.副作用、4.経済的時間的負担、5.癒できなかった場合の対処法などを、患者さんにとってのメリット、デメリットを説明するようにしている。
(うそつき)と言われた箇所は治療の目的のところである。何故C型肝炎の治療をするのか、薬でウイルスを排除させることで肝臓に対する負担を軽くし、先々肝がんに進展しないような体にしましょう、と説明をおこなっている。
ところが、この患者さんでは、治療を終えた3か月以内に新たに肝がんができてしまった。(うそつき)と言われたことを至極当然のことと受け止めるとともに、これから、このようなことがあってはならないと強く自省した。
内服薬の治療後の発がんは、インターフェロンという注射薬を用いた後の発がんとは様相が異なるという印象を持っている。多くの方では、ウイルスを排除させることで健康な体を取り戻されているが、このように治療直後にがん化する例の病態解明を急がなければいけない。
最後に、(先生のうそつき)の一言は、その患者さんの期待に副うことができなかったことに対するお叱りの言葉であるとともに、私とその患者さんとの緊密な関係を表す言葉でもあると受け止めている。
(取材と新聞記事掲載にご理解とご協力いただいた◯◯さんに感謝申し上げます。)
(記事の掲載許可取得済)
(文責 八橋 弘)